62 花嵐の踊る夜 02
(あああ何やってんだろう、おれ!)
流れる人を掻き分け、屋台に停まる人々を覘き回ってみましたが、三橋には会えません。
夜祭の熱気とは反対に、栄口の背筋は凍るような気持ちでした。
三橋にもしものことがあったら
栄口は 節々のしっかりした、自分の手のひらを睨みました。
ある瞑想の時間、 三橋の手を握ったとき
「おれのて、 ゴワゴワで きたない、 からっ。」
ごめんね、と
恥ずかしそうに、 申し訳なさそうに、
睫を伏せた三橋を、栄口は忘れることができませんでした。
食べたいぐらい、 すきなのに。
硬い皮膚をつけた彼の指、 一本一本 舌を這わせたいぐらい、
・・・好きなのに。
(待つなんて、 らしくなかったね)
ムリに触れたら困らせてしまう、傷つけてしまう、
そんな臆病な風があったから
夜祭の、
なにか幽玄なものが
三橋を、 大切なものを自分から引き裂いたのだと、栄口は自身に腹を立てたのでした。
ひゅうん、 パアン。
遠くで火薬のはじける音が 聴こえました。
はっとして、栄口は、音のしたほうへと走ってゆきました。
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秋祭りは盛況なのに、
神社の境内も本宮から外れると、人の影はまばらでした。
社の裏で、花火で遊ぶ小学生たちを眺めながら、 三橋は途方にくれて、座り込んでいました。
季節外れの火あかりは、白煙をまとって怪しげにぼやけます。
若衆のいちばん強そうな人が お神酒を配って廻ります。
紙コップの中に僅かに注がれた、透明の液体が 三橋にも差し出されました。
舌先で舐めると、芳香が鼻をくすぐり、酒気が、肺に立ち込めました。
闇に転々と浮かぶ提灯の明かりの下に、 三橋は自分の手のひらをかざしてみました。
オレンヂのまあるい灯りが、ぼんやりと照らします。
三橋は野球で作ったタコだらけの手のひらを、恥ずかしいと思ったことは今まで一度もありませんでした。
なのに とつぜん
(きたないって・・・思われた・・・か、な?)
瞑想の時間、栄口と自分の手を重ね合わせた途端、
急に 自分の手が、すこし悲しくなったのです。恥ずかしくなったのでした。
・・・・・どうして、なの?
目尻に涙が溜まり、三橋はほとほとと、 泣きました。
泣きじゃくる三橋を、
近くにいた パッチと白足袋の青年達が、心配そうに見ていました。
でも迷子にしちゃあ でかいよな、 とか何とかいいながら。
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