62 花嵐の踊る夜 01
ひゅう どんどん。 ピー ヒャララ。 とんかっしゃん。 |
かわいいあのこは ひらひらと。
赤いきんぎょが 眼に刺さる。
かわいいあのこは 綿毛のよう。
おれの喉を くすぐって。
かわいいあのこが ないている。
祭囃子に かき消され。
「三橋、ワタアメ食べないか?」
少年は 屋台の一角を指さしました。
しかし
『ミハシ』と呼ばれた連れの姿は、
「あれ いない」
先ほどまで となりを歩いていたはずなのに、 消えていました。
あれほど気をつけていたのに、 何処かへ置き去りにしてしまったのです。
「しまったあああ!! 遠慮しないで、 手ェ繋いでおけばよかったよ!!
」
叫んでみても、 時 既におそく
栄口という少年は、来た道を振り仰いで、ミハシが人ごみに紛れてはいないかと、
懸命に探し回りました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ いっぽうそのころ ☆☆☆☆☆
「・・・・・・あ、あれ?」
香ばしい焼き物の匂いに誘われて、 余所見をしていた一瞬の間でありました。
栄口の姿が見えません。
「サカエ、グチ、くん。」
三橋はすこし大きな声を出しました。
しかし返事はありません。
絞り染めの浴衣を着た 幼い女の子が、不思議そうに見上げて通り過ぎて行っただけでした。
三橋の声は
笛と、太鼓の音に、人々の笑い声や泣き声に、 かき消されて跡形もなくなりました。
そろそろざわざわと 大勢の人が 三橋のシャツの袖を掠めては通り過ぎてゆきます。
(みんな、一緒で、 楽しそうだ、な。)
先ほどまでは三橋だってそうでした。 栄口とふたりだったのです。
ところが いまはひとり。 たったひとり。
左手に持ったラムネのビー玉が
ぬるい炭酸水の中で カチカチと鳴りました。
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