初めてです。笑ったのは。(おおきく振りかぶって)  04






三橋は
此れから先、栄口の笑顔なしで生きてゆけなんてあんまりだと思っていた。
病気だから、仕方がないけれど。笑わない以外は、いままでの栄口に変わりはないのだけど。

栄口が、いろいろな種類の笑顔を持っていることを、三橋は知っている。
そのどれひとつだって、失うのは嫌だった。
自分はいつからこんなに欲張りになったのだろう。なくしたくない物がこんなにも増えた。
おはようって、挨拶を返してくれるだけで十分だったのに。
名前を呼んでくれるだけで、独りぼっちの不安から開放されたのに。

ゼイタク、だ。


こらえていた涙がこぼれ落ちそうになったそのとき。


「三橋。お前なら栄口の病気をを治せるかもしれない。」
花井が三橋の背中をやさしくたたいた。
キョト? というより、キョド? とした目で花井を見上げる。
三橋の、涙で屈折して琥珀色に揺れる瞳とみつめ合い、
主将は絶句する。


「な…っ、いいか?よく聞くんだ。三橋の力で、栄口を笑わせられるかもしれないんだよ!!」


・・・そうなの?おれなんかで?? でもどうやって??

三橋が目一杯クエスチョンマークを飛ばしているのが、花井には視えた。透視できた。
あとは本人同士でやってはもらえまいか。
お見合いでも、あとは、若い者同士おふたりで、っていうじゃない??
どうにかしてくれ、と縋る花井の視線を栄口はしかと受けとめた。



「…三橋。」
ズイッと三橋のそばへ、栄口が膝を寄せる。





「うっ、え・・・さ・・・さ、かえ、ぐち、・・・くん。」
間近に栄口の顔を見たら、退きかけた涙が再びこみ上げてきた。

ああ。笑いかけて、その涙を止められたらいいのに。
歯がゆい気持ちを飲み込んで、栄口は三橋の涙を拭った。
「俺の笑いのツボって、三橋だよ。三橋は笑わせてるつもりないだろうけどさ。」

「う。・・・お、おれ、栄口くんに、笑って・・・ほし、い。」
彼のためにも。自分のためにも。

「栄口くん、」 勇気を出して、三橋は宣誓する。
「お、おれ、な ん でもっ する、よ!」

なんでもって、みはし・・・・なんでもってなに!?

その他の部員が抗議する隙を、栄口は与えない。

「うん、頼むよ。俺が笑えるようになるまで、そばにいて。」

なんてこったい!!!


栄口を襲った謎の病は
どうやら災い転じて福と成したようである。

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