三橋は
此れから先、栄口の笑顔なしで生きてゆけなんてあんまりだと思っていた。
病気だから、仕方がないけれど。笑わない以外は、いままでの栄口に変わりはないのだけど。
栄口が、いろいろな種類の笑顔を持っていることを、三橋は知っている。
そのどれひとつだって、失うのは嫌だった。
自分はいつからこんなに欲張りになったのだろう。なくしたくない物がこんなにも増えた。
おはようって、挨拶を返してくれるだけで十分だったのに。
名前を呼んでくれるだけで、独りぼっちの不安から開放されたのに。
ゼイタク、だ。
こらえていた涙がこぼれ落ちそうになったそのとき。
「三橋。お前なら栄口の病気をを治せるかもしれない。」
花井が三橋の背中をやさしくたたいた。
キョト? というより、キョド? とした目で花井を見上げる。
三橋の、涙で屈折して琥珀色に揺れる瞳とみつめ合い、
主将は絶句する。
「な…っ、いいか?よく聞くんだ。三橋の力で、栄口を笑わせられるかもしれないんだよ!!」
・・・そうなの?おれなんかで?? でもどうやって??
三橋が目一杯クエスチョンマークを飛ばしているのが、花井には視えた。透視できた。
あとは本人同士でやってはもらえまいか。
お見合いでも、あとは、若い者同士おふたりで、っていうじゃない??
どうにかしてくれ、と縋る花井の視線を栄口はしかと受けとめた。
「…三橋。」
ズイッと三橋のそばへ、栄口が膝を寄せる。
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