三橋の自宅はそれはもう、大豪邸なのだが、門構えも屋敷に引けをとらぬ、立派なものだった。
朝から降り止む気配の無い雨が、深緑色の鉄柵を濡らしている。
一緒に下校してきた三橋と栄口は、その豪奢な門の前に立っていた。
うちへ泊まってほしい、と遠慮がちに申し出た三橋に、
栄口は夢のようだとぶっ倒れそうになった。
栄口に笑顔を取り戻すため、律儀にもずっと傍にいてくれようとする。
そんなけなげな提案を断っては、男がすたる。つーか、こんな機会もう二度とこないかも。
急な訪問にも三橋の母は嫌な顔ひとつせず迎えてくれた。廉が友達を連れてくるのはとても嬉しいと言った。
二階の三橋の部屋に通されると、ちょっとまってて、と言って、三橋は階段を下りていった。
栄口は一人、とり残される。
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・・そうだ。ウチに電話しよ。
男子高校生とはいえ、無断外泊は家族に心配をかけるであろう。
携帯で自宅電話の呼び鈴を鳴らすと、ほどなくして姉がでた。
「もしもし、俺だけど。あの、急なんだけどさ、今夜友達のウチに泊めてもらうことになった。」
≪友達って…野球部の子?そっか。そうね。仲いいみたいだしね。≫
電話越しの姉の声は、少し戸惑いを含んでいる。
「・・・?」 姉の意図がよくわからない。
≪勇人の誕生日、部活の子達に祝ってもらえるんでしょ。ウチは明日にするって父さん達に言っとくから。≫
・・・ん?・・・誕生日・・・?
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・・あ、えーっと。
忘れてた。
わが身に起こった事件に気を取られ、意識の中からきれいさっぱり飛んでいた。
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