初めてです。笑ったのは。(おおきく振りかぶって)  02






本日の議題は言うまでも無く、栄口のことである。
騒ぎの張本人、栄口自身は、案外落ち着いた様子で部室の畳の上に胡座をかいている。

「で、具体的にはどういう症状なんだ?」
阿部が質問を投げかける。

「何かきっかけとかは思い当たるの?」
西広が穏やかに尋ねる。

栄口は、うーん、と眉を寄せて、首をひねった。

「俺にもさっぱり見当がつかない。顔の筋肉が、笑顔の作り方だけを忘れてしまった感じ。」
今朝起きたら、突然そうなっていたのだ。本人の中では、
こんな病気にかかるようなストレスも、精神的ショックも何もありゃしない。

「記憶喪失でもないし、生活に支障は無いんだけどさ。うれしいときも、面白いものを見ても、
無表情っていうのは困るね。」 そう言って苦笑いさえできないことに、栄口は気がついた。

あと、好きな子のまえでもそれは困る。
栄口は、ちらりと横目で三橋を盗み見た。

三橋は心配のあまり、身も心も疲労こんぱいしている様子がうかがえた。
何かを言う気力も無いらしく、まるで自分のことのように酷い衝撃を受けているようだった。
ほんとうは傍に寄って、にこっと笑って、大丈夫だよって三橋を安心させたい。
いまの自分はその術を持たぬことに、今更ながら唇を噛んだ。


ああ。俺、なにかバチが当たるようなことしたかなあ。
この世に生を享けて、はや16年。人に優しく、モラルを乱さず、自分なりに励んできたつもりだったが。


「だれかが試しに、ここで手っ取り早くコントでもしてみればいいじゃん??」
田島が元気いっぱいに発言した。


笑わせるといえば、お笑いだ。
西浦野球部のお笑い担当といえば。



「・・・!?おれ??」
水谷に皆の視線が集まった。おまえしかいないだろうって顔している。
「いやいやいやいや。阿部には負けるって。」
「ああ??」
阿部が険悪な声を出す。

わざわざ地雷を踏む水谷、それにご丁寧に怒りで反応する阿部、それなりに面白いのだが。
今日の栄口を笑わせるには、至らない。

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