六月の梅雨前線は、この日も校庭を濡らしていた。三橋、田島、泉、の九組野球部員は、
賑やかな雰囲気のもと、昼食を摂っていた。教室の中にまでは、忌々しい雨足も届きはしない。
何かが近付いてくる!
いち早く異変を察知したのは、運動能力身体能力では学内で無敵を誇る、田島勇一郎だった。
数十秒ののち、彼の予感が嘘ではなかったと証明される。
一人の少年が、野球部ならではの鍛えられた脚力で、九組の教室に駆け込んできた。
「大変だ大変だ大変だあああ〜!!!とにかく大変だあああっ」
普段はおとなしい、人前で目立つのは苦手そうな沖が、 廊下の 端から端までを
大声で叫びながら全力疾走してきたことのほうが、よっぽど大変だと三人は思った。
さすが野球部。普段からモモカン特製・地獄の練習メニューをこなしているだけあって
沖は息切れひとつしていない。
ただ、酷くうろたえていた。
何事なのだと見上げる三人に、沖はひと呼吸置いて、叫んだ。
「栄口が、 笑わない病気にかかった!!!」
「「「ええええええええええ!!??」」」 九組三人の絶叫が重なる
田島は、うっそだ〜、とその場で伸びをした。
泉は、なんだよそりゃ、と目を丸くした。
三橋は…
「さかえぐちくんがしんじゃう!!」
めずらしくカツゼツが良かったが、とんでもないことを口走った。
「死なねーよ!!」
取り乱す三橋を泉が必死に宥める。
笑い死ぬことはあっても、笑わないからって死ぬことはないだろう、たぶん。
じゃあ、おれ花井たちにも伝えてくるから。と言って
沖は七組へ走り去っていった。
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