94  くなりくなり頑なな球形となって 01











 



ザザッ 、ザザッ 、ザザッ 、ザザッ 、




音がするたびに 地面からは、 軽い土埃が舞う。
トンボは 土を引っ掻きながら、足跡だらけだった野球場に 平らな線を描いてゆく。

さかえぐちは阿部と二人きり、 グラウンドの整備をしていた。




「足跡たっくさん付いてら。 部員が一気に増えたからなー」
ごちゃごちゃと交錯する 運動靴の痕跡は、仲間が増えた、何よりの証。

「いよいよ本格的に、チームになるなあ」




「ああ。特に 田島がウチに来たのはでかいよ 」

阿部も満足そうだ。




阿部と栄口は
中学卒業の余韻を味わう間もなく、 春休みの内から西浦のグラウンドを訪れていた。

土をならして、 
細かい雑草を抜いて、
ベースを埋め込んで、
マウンドに土を重ねた。

野球場を一から仕上げる作業は決して楽ではなかったが、
早く 高校で野球がしたい、 その一心で作ってきた。
自分の手で作った この場所で、みんなと早く野球がしたい。


「創部一年目で10人なら、十分だよな。
 田島、巣山、花井、西広、沖、泉、水谷、 そんでもって、三橋!」
栄口は、 個性豊かな野球部の面々を頭に浮かべた。


「ピッチャー入部してよかったな。 あの いかにも打ちそうな花井を抑えたし、
 すごいんじゃないか?」 

群馬から来たと 言っていた。
ちょっと挙動不審な、投手の顔を思い出す。



しかし阿部からは 栄口の予想に反した答えが返ってくる。
「あいつ一人じゃできねーよ。 俺が 抑えさせたんだ。」


・・・ こいつって。
と、 思ったけれど、 口に出しては言わない。決して言わない。

「・・・俺は キャッチャーもピッチャーも経験無いけど、バッテリーって
 そういうもんなの?」

栄口の問いに、 阿部は その感情を察し難い、きみょうな表情をした。




「・・・投手なんて、全員、 宇宙人。」

「はあ??」 なにいってんだろ。

「大丈夫だ。さっきも言っただろ。 三橋の投球、俺のリード、
 打ち取れる野手と、一点取れる打者がいれば、 甲子園に行ける。」
阿部は自信たっぷりだ。




暗くなってきた。
早く終わらせようぜ、 と言われて、栄口は作業を再開した。


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