「あれ? まだいたんだ。」
栄口がロッカーへ着替えを取りに行ったら、三橋がいた。
新入部員達は、監督や先生と軽いミーティングを済ませて、 帰宅したはずなのに。
阿部はユニフォーム姿のまま 部室へは寄らずに 帰っていった。
ギョクッ!!!??!!
三橋の驚きようといったら。
人間って、
あんなに高く飛び上がれるんだア。
「うごっ・・・・っ、ごごごごめ、ごめんな、さっ、い!!!
すすっ、す・・・すぐ、すぐ、 か、帰りま・・・」 三橋は声を震わせながら、 不器用にバタバタと帰り支度を始める。
「!?、 あ、おいっっ、待っててよミハシ! いっしょに・・・」
”帰ろう、”
と言おうとしたのだが
バタンッ!!!
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、 そういいながら、三橋はうつむいたまま、
栄口の前を足早に去っていった。
外を見たが、姿はもう無い。
栄口は、 ただただ あっけにとられていて。
はえー、足速ェー。 三橋って結構 駿足とみた。
ぽつん、ぽつん、
部室にボールが 点々と転がっている。
シニアの経験もある栄口には、なじみが深い 硬い球。
ほんの一瞬、 でもはっきりと、栄口は見た。
三橋は、ここでボールを磨いていた。
ぺたんと座りこんで、 体を丸くして、 掌に包んで、丁寧に磨いていた。
視界に映った彼の顔は、少しだけ はにかんでいたんだ。
≪ 投手なんて、全員 宇宙人だ。 ≫
さっきの あべの言葉。
(うーん)
宝物をやっと手に入れたように、いとおしそうで、不安そうだった、 三橋の俯いた顔。
(甲子園、 ムリって 即答してたけど)
グラウンドに居たときは、 あんな顔しなかったな。
(泣いてたし)
群馬では、どんなピッチャーだったのだろう。
(贔屓って )
・・・そういやああいつ、 モモカンに ケツバットされてたけど、ケツ…腫れてるかも。
(・・・・よし!)
栄口が
いい薬があるから、 ケツに塗れよー、 と薬を持ち出して
三橋を更にビビらせるのは
次の日の話。
(94 丸
くなり丸くなり頑なな球形となって)
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