周囲の雰囲気はお構いなしに、
普段と変わらぬやり取りを交わす三橋と阿部。
それを殺し屋のように怜悧な視線で静かに見つめる泉に運悪く気がついちゃって唖然とする水谷。
沖はちらり、と顔色の悪い水谷に目配せをした。
隠微な感情を含んだ沖の眼に、水谷はすがるような顔を向けた。
阿部と泉にだけは悟られないよう、ふたりは目線だけでひっそりと会話をする。
(イコウ)
(い、いくのか…?)
(オレガ阿部デ)
(おれは…三橋でいいの?)
(準備ハ…イイカ?)
(ガ…ガッテン)
((せーの))
「「三橋逃げるぞおっ!!」」
「「!?」」
あっという間の出来事だった。
阿部と泉がしまった、と驚愕した瞬間には、時すでに遅く。
沖が阿倍の背後に、水谷が三橋の背後にまわり、
阿倍と三橋を体ごと引き離した。
「うっ、おお!?」
状況がまったく読めていない三橋の悲鳴は無視して、抱えるように水谷がその腕を掴んで駈け出した。
「とにかく攫まんなよ!!」
阿部を羽交い絞めにして動きを封じる命知らずな男・沖一利は
遠ざかる水谷と三橋の背中に向かって叫んだ。
そんな彼の勇気を心の底から尊敬しつつその声に励まされながら、水谷と三橋の姿は雑木林の陰に消えていった。
「くっそ!!」
苦い顔をした泉が、地を蹴ってふたりの後を追おうとした。
と、そのとき、
「!?」
阿部を力の限りに抑え込んでいたはずの沖が、三橋たちが逃げて行った細い道の前に立ちはだかり、
泉の行く手を遮った。
「おっ…沖! やるじゃん」
ちいっ、と険しい表情で相手を見据えるが、泉の顔は眼前の沖を讃える感情も帯びていた。
「俺を倒してからだよ」
沖は、彼にしてはめずらしく不敵な笑みを浮かべた。
後ろに手を伸ばすと、背中からなにかするすると長いものを抜き取った。
「はあっ!?」
「なんだそれ!!!」
沖のユニフォームの中から出てきた物体はあまりにも意外性がありすぎて、
阿部と泉は同時にツッこんだ。
それは、スポーツチャンバラの<長剣>だった。
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