75.ダウトコール 06-1






 



雲をじわじわと茜色に染め上げながら 夕日が沈む
空は張り裂けて薄暗い夜になった 山吹色の満月がぼうっと空に浮かんだ

立ち止まり振り返ったほそい背中は いつだってぎこちないのだね
オレは思わずひざをついてうずくまった
呼応の声は頼りない胸の中 泡沫状になってパチリパチリとはじけてる




失うことが怖いなんて 俺には贅沢すぎて





















冷えきった阿部の指に、三橋は胸騒ぎを抑えられなかった。
手を握ったのは無意識のことだ。
荒れた指先が氷のような阿部の指をキュ、と包みこんだ。

「阿部く、ん」
体温を分けられたらいいと、三橋は思っただけだ。 
返事を期待せずに呼びかけると、深く思案に暮れていた阿部の目が、三橋の顔をしっかりと見つめた。


「あ、 あべ、くん、」
「お前、本気で追いかけっこしすぎて転んだりしてねーだろうな?」

きゅうにはぐらかすように、
三橋の指をやんわりとほどいて、阿倍はにべもなく言い放った。
大げさなくらい、ぶんぶんと首を横に振って、そんなことはしていないと三橋は必死にアピールする。


阿部の手を迷うことなく摘み取り、てのひらで包み込んでいた三橋に、
泉たちは言葉を発することを忘れてその場に立ち尽くしていた。
しかし
急にふたりがいつもの見慣れたバッテリーの姿に戻って、



それを水谷は不思議な気持ちで見つめていた。
























(ミ・ズ・タ・ニ……)

(ん?)


名前を呼ばれたような気がして、声が聞こえた方角へ顔を向ける。
隣にいた沖が、
思わず聴き逃してしまいそうな小声で口をパクパクとさせていた。
丸い大きな眼が水谷になにかを訴えかけようと見つめていた。

(な、なに?)

水谷が同じように小声で応えると
沖は、三橋と水谷を交互に見比べたあと、ある一方向を目で指示した。

(あ)
沖が見つめていた方角には、唯一の脱出口といってもいい細い道。
ちょうど阿部と泉には死角となっている。

(オ・レ・ニ・マ・カ・セ・テ…)
(う、うん?)





(ニゲロ)
(…わかった)
ふたりは、コクリと頷きあい、阿部の前で挙動不審に首を揺らす三橋を見つめた。






 

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