75.ダウトコール 05-3 |
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今日の気温はたしか三十二度だって言ってなかったか?
…なのに寒い。
目が離せなかった。
本能は拒否を続けて、ガンガンと頭が割れそうなくらいに警鐘を鳴らしてくるのに。
それは否定したい一方で、根っこの自分が望む三橋の姿だったからではないのか?
ただ、その相手が俺ではなかっただけで。
ふたりは額を寄せあっていた。
三橋はベンチにペタンと座っている。向かい合って立つ栄口はそれを覆うように身を屈めている。
口が開きっぱなしでひたすら無言の三橋。
忙しなく唇を動かして何度も謝罪の言葉をくりかえす栄口。
苦しそうに歪んだ栄口の顔を、三橋はひた、と凝視している。
その眼が、
拒絶するどころか熱に浮かされ淡い色を帯びて、相手を無意識に煽っているなど知りもせず。
だらんと前に垂れ下がった三橋の両腕は、指先だけが弱弱しく栄口を求めて体に触れていた。
謝ることで頭が一杯の栄口は、まるっきり気がついていないけれど。
三橋の危うい片鱗を見止めてしまったのは、残念ながら阿部独りだった。
栄口のユニフォームは、三橋に強く握り締められたのであろうクシャクシャの皺がくっきりと跡になっていて
やけに生々しかった。
(マウンド以外でもそんな顔するのか?)
ガンガンガンガンガンガン
ガンガンガンガンガンガン
理解しにくいたどたどしい言葉
陽光に反射する大粒の涙
壊れそうになってもマウンドへ向かう背中
鳥肌が立つほど静謐なストライク・ボール
ピタリと重なりあうボロボロの掌
名前を呼ぶ掠れた声
三橋が差し出すモノぜんぶ、当たり前じゃないって?
ガンガンガンガンガンガン
―これは警告だ。
カッシャーン、
と
頭の中で警鐘を粉々に破壊した。
「栄口!!」
叫んでいた。
弾かれたようにこちらを見た栄口の驚いた顔、
夢から覚めたばかりの正気染みた眼でこちらを見た三橋。
それを目にしたとたん、
阿部は自分の手指がガタガタと震えていることに、今更ながら気がついた。
(ダウトコール5話 終)
読んでくださってありがとうございました! 次回は最終話の予定ですっ。
しかし勝負つくのかコレ・・・?
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