75.ダウトコール 05-2






 




「ここの裏の林ってね、隠れるのに絶好の場所が十箇所くらいあるんだけど」
「あー、けっこうあるよね。無人の小屋とか洞窟っぽいとことか」
「田島たちの隠れてるとこに、心当たりあるか?」
「その何箇所かを全部まわればどこかで当たりそうだよな」

「うん。でも十中八九ここかな、っていう場所の予想はもうついてる」


「「「「!?」」」」


驚きの発言をなんでもない様子で口にする西広に、そろって目を瞠る。

「ここからの距離とか、広さとか、穴場っぽさとか、いろんな条件がそろってるんだよ、そこ」

「…質問。なんでそんなに詳しいの?」 泉がおずおずと手を挙げる。
西広はたおやかに微笑んだ。
「グラウンド周辺の立地状態と林の構造はこのあいだ全部覚えたから」

「…え?」 阿部が肩眉をあげる。
「まてまてまて。西広、あのだだっ広い雑木林のどこに何があるのか、分かってるとか??」 花井が身を乗り出す。

「うん、いちおぜんぶ入ってるよ。行き止まりとかも」 
トントン、と 大脳皮質が詰まっている頭を、西広は指で軽く叩いた。


天才軍師・西広!
プロフェッサー・西広!
歩くコンピューター・西広!
グレート・ティーチャー・西広!
マッド・サイエンティスト(?)・西広!


野球部のブレーン・西広辰太郎。
その驚異的な記憶力に、
あらためて阿部、花井、栄口、泉は、全員総立ちで思い付く限りの賞賛と、拍手喝采を贈る気分だった。



「その条件を満たした場所っていうのが…たぶん小川の近くにある材木小屋なんだけど」


がさっ


「!?」
ふいにベンチの裏手から聴こえた物音に、西広を除く探偵チーム全員が跳びあがった。

たたたたたたた・・・・・・・・っ
走り去る足音がとてつもない速度で遠ざかっていく。


「いま、誰かいたぞ!!」
「沖だった!」
「ちっ、聞かれたか!」
「早く追いかけよう」

焦って沖の後を追おうとバタバタする四人を、西広は優雅な手つきで制した。

「平気だよ」
「で、でもさあっ…」 あまりにものんびりと構えている西広に、不安を抑えられない栄口。

「沖に話を聞かれてるのは知ってたし、計算のうちなんだ。泳がせるつもりだったから」
他愛もなく、
まるで今晩の夕食のメニューを話すかのように、とんでもないことをサラリと言い放つ西広。



「………」

田島たちが次に隠れそうな場所の見当もついてるから先回りできるよ、 とニッコリわらった西広に
花井たちは、


こいつが西浦野球部の味方でほんとうによかった…と、満場一致で神仏にひれ伏し感謝したくなった。


























「…と、いうわけなんだ」 泳がされているとは露知らず。
と、いうわけで沖たち泥棒チームは逃げている。

「…西広先生、恐るべし。すっげえ〜」 引きつった笑顔を浮かべて水谷が仰け反った。

「にしひろくん、は…すごく、頭いいっ…よね!!」 己の危機をまったく感じない様子で三橋が同意する。

すっかり仄暗くなってしまった森林の合間を駆け抜ける五人の少年たち。
ザザザザ、と低木の葉を掠めながら次なる安全な場所を目指して急いだ。
だが、せっつく気持ちを抑えて、巣山が足を止める。

「巣山、どうしたの?」 先を走っていた田島が、怪訝な顔で振り返る。

巣山は眉根を寄せて、低く呻いた。
「やな予感がする。全員で同じ場所に行かないほうがいいかも」


「二手に分かれる?」
「そうしよう。で、俺と田島はいざってとき囮になるのも兼ねて、目的どおりの場所に行こう」
「りょ〜かい!」

「じゃあ…俺と三橋と沖はどうしよう?」
「三人一緒に適当なところへ隠れてもいいし、バラバラでもいいから別方向に逃げて」
「ん、わかった。行こうぜ三橋、沖」
「巣山、田島、健闘を祈る!!」
「おう、気をつける。そっちもな」
「グッドラック!!」
「生きてまた会おう!!」
「ま、また、ね〜」

人間危険が迫るほど、追い詰められるほど、たかがゲームでも愉快にノリノリになるのは何故だろう。
いまや泥棒チームの五人は、戦場で同じ釜の飯を食ったくらいの結束力だった。



そして策士・西広はここまでも読んでいた!














 



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