75.ダウトコール 03-2 |
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『みはし』
耳元で、栄口がそう言った。
思い出したら、
顎と首筋のあたりがなぜか ぞくぞくと くすぐったい、そして…すこし怖い。
れ、
あのとき確かに、耳に何かが這入った。
蘇る感触にたまらなくなって、三橋は木の幹を抱く腕に力を込めて、身を縮めた。
『ん、ん、』
『みはし』
すぐにでも逃げ出したいはずなのに。
遠ざかる意識に逆らって、栄口のユニフォームが千切れそうなほどしがみついたのはどうしてだろう。
たった数分が、何10分にも感じられた長い時間。
栄口はなにかの行為に没頭していて、
三橋は泣くことも、悲鳴を上げることも、突き放すことも思いつかないほど動揺していた。
『さ、かえ、ぐちくん…』
『…!』
肩口に顔をうずめてモゴモゴと自分の名前を呼ぶ声に、 栄口は一瞬にして我に返った。
なにキレてんだ、オレ。ばかだばかだ、さいてーだ。
『うあっ、ごめんっ!! ほんとにごめん!!』
あやまって許してもらえるならば、この世に警察は要らないとは有名な話。
頭に血が昇って我を忘れた自分へのどうしようもない怒り。
あとやっぱりオレって三橋にこういうことしたかったのかあ…という妙な諦めと脱力。
なんかもう ぐだぐだで、 けちょんけちょんだった。
切ってしまえ。
悪い舌は、切ってしまおう。
その後、
栄口には終わりのない自己嫌悪と気まずさ、阿部の怒り爆発という制裁が、きちんと加えられる。
三橋は天上の蜘蛛の糸、もとい巣山の手が差し伸べられる。
(あああ、ううう)
巣山に見つからないように、身をよじって三橋はため息を吐いた。
懸命に謝っていた。
あんな泣きそうな顔をした栄口、これまで見たことがなかった。
……あんなことをする栄口はもっと知らない。
「ふわっ!?」
ビクビクと三橋の体を突き抜けた不思議な痺れ。それはマウンドに立ったときの緊張感と高揚感に似ていた。
ただそれが何を意味するのか、
栄口はモチロン、三橋にすら分かる術のないことだった。
時刻は18時をまわるところ。
なにやら空を見上げてブツブツと呟いていた巣山と、人には言えない記憶を反芻していた三橋の目が合う。
「そろそろ田島たちと合流してみっか?」
「う、うん」
二人は泥棒チームの面々を探して松の木をあとにする。
(75. ダウトコール 03 終)
ごめんなさい、いろいろとごめんなさい(冷汗・滝汗)。
とうとう、やらかした…。
読んでくださってありがとうございました。次は第4話です。
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