75.ダウトコール 02 











( 「なんでもない」 わけあるかっつーの )

彼にしては非常に奇異で珍しい。 栄口はクサっていた。


心中で吐いた悪態は、誰にというわけではないのだが。 強いて言うなら現実に。
ともかく気持ちがささくれ立っていた。

今、三橋は栄口の傍にいる。
盗人チームの三橋を、探偵チームの栄口が捕らえて牢屋エリアまで連行したばかりだ。
ベンチの上で体育座りをしたまま、オドオドと栄口の顔色をうかがっている。


(雑木林で花井と何があったんだ)

心の揺れ幅が存外大きくて、それを今日はあいにく思い通りには隠せない。
三橋は敏感に受け取って、栄口を怖がっているようだった。

さらさらと吹き込む初夏の風だけは心地よく、
しかし ふたりの居心地は、よろしくなかった。



「三橋、 違うんだ」 怒っているわけじゃない。

「・・・う、 うん・・・?」 消え入りそうな返事が戻ってくる。

「花井がお前を木に押し付けて覆いかぶさってたからさ、 驚いたんだ俺、」

「う、うう〜」 三橋は困り果てた顔で呻いた。



(・・・・・・しかも それだけじゃないよな?) って聞きたい。

紅潮してた花井の頬と 浅く乱れていた三橋の呼吸。 



そ・・・・・・それだけって、何だ。

それ以上のことがあったらどうするんだ、知ってしまった俺はどうするんだ。
なんかいやらしい。
浮かんだ自分の言葉をすぐさま打ち消した。



「ケンカした・・・わけじゃないよなあ」 

「そっ!? そんな・・・っ、こ・・・とっ してない、 よ!!」
耳まで真っ赤な三橋は、ムキになって否定する。

わかってる。 そういうんじゃないって。


「あ〜っ、 もう、 そういうんじゃなくってさあっ!!」 

ぐおっ とおもむろに立ち上がり、 
重たい空気と気まずい雰囲気を振り払うように、 栄口は変に明るい声で叫んだ。


「ひ、う」 
栄口くん、怒ってる、 と半泣きになった三橋にかまわず、

「俺はさっ」

「ううっ、え」

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


引き寄せて、 抱いた。







このあと阿部に現場を目撃されて
栄口が 烈火のごとく怒り狂った正捕手にとことん追い回されるのは、
その隙に 巣山に救出された三橋がサクッと脱獄するのは、


10分後の、 ハナシ。



(75.ダウトコール 02 終)













10分あれば、 いろいろできるよ!(おいコラ)
第2話は、サカミハでした。 ジェラスィー栄口くん、ちょっと暴走。


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