西浦高校の野球グラウンドは、広大な畑とそれなりに深い雑木林に囲まれている。
野球部にとっては、今やすっかり勝手知ったる場所ではあるのだが、
それでも日が暮れればうっそうとした黒い森と化す。
木々の生い茂る林に足を踏み入れて、 腕時計に目をやった花井梓はため息をついた。
(時刻は17時10分・・・・・・完全に陽が落ちるまで、 あと1時間といったところか?)
あたりが闇に包まれれば、はっきり言ってこの勝負、探偵チームには分が悪い。
いくら馴染みの場所であれ、
真っ暗な森の中で息を潜められてしまったら、泥棒チームの面々を見つけ出すことは容易ではなかった。
つまり、日没までの約1時間が勝負の分かれ目ということだった。
ある程度林の奥深くまで踏み進んだ花井は、 立ち止まり周囲を見渡した。
(少々卑怯だが・・・一か八か。 『アイツ』 が近くに居れば)
たぶん、引っかかるよな。
花井は大きく深呼吸をひとつ、 そして腹の底に溜めた声をあらん限り張り上げた。
「アイちゃん(犬)がそっちへ逃げたぞおおお!!!!」
「うわああああああああああんっ!?」
直後、 右手前方の山躑躅の陰から、淡い茶色のふわふわした頭が飛び出し
花井の大声に負けないような大きな悲鳴を上げた。
「あ、 マジで?」 あんまり作戦通りだったものだから、当の花井がぽかんとした。
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