85 言葉が足りなかったからぶんかいした。 01








 あずき色のちいさなクッションが、 おれの顔を ペシペシと叩いた。

















 試合終了の声とともに、 三橋は球場を飛び出していった。
 叶は声をかけようとしたが、 相手はけっして目を合わせようとはせず、その姿は裏山へ びゅうと消えた。



 「ほおっておけよ、 あんなの。」
 三橋が走り去っていった方角へ関心を緩めない叶の肩に、 畠がキャッチャーミットをぽんと当てた。



 「んぐぎゃあ!!」
 
畠が カエルが潰されたような声を上げる。 叶が首を絞めてきたからだ。


 「叶! 叶! ギブ! しぬ! はたけが!!」
 焦ったチームメイトが、 叶と畠のあいだに止めに入った。



 叶は何事もなかったように
 「じゃあな。 パスボール減らせよ。」
 周りが助けなければ、 あと一歩で意識を落としそうだった畠を一瞥して、 グラウンドを後にした。





 「あ〜本気で締めてきたぞ・・・・」
 首を撫でさする畠は涙目だ。
 「お前も懲りないよな。」



 「おれは 叶をエースとして認めてるだけだ。」

 「まあなあ」  みんな相槌を打つ。




 でも試合終了のたんびに 叶に締め落とされそうなおまえってどうなのよ。
 ギッタギタのメッタメタにされないだけ、 叶は大人になったよ。
 
 それもこれも三橋が!
 みはしのせいで!!!
 三橋が投げるから!!!!

 だんだんヒートアップする部員達の感情の矛先は、 結局のところ三橋へ向かうことになり。

 その悪循環には誰も気が付くことはなかった。

 たぶん、 次の試合でも 畠は叶に締められるのだ。


 



















































































 

 「どこいくんだよ。」

 振り返った幼馴染の顔は、 涙でグシャグシャだった。 その顔に、 叶はいつまでたっても慣れない。


 「・・・・ごめっ、  なさっ、 」

 「だから、どこ行くんだよって。」 謝るとこじゃないだろ。 ほんとうはそう言いたいのだが。

 「う・・・っ。 えと、 じ、ジン、 ジャ。」


 「神社?」
 とっさにこの山の奥にある、ちいさくてひなびた稲荷を思い浮かべる。



 「一緒に行ってもいいか?」

 「えっ?」


 神社にいったい何の用があるのか、 叶はあえて聞いてこない。
 強い意志を秘めた幼馴染の目は、 三橋の答えを穏やかに待っている。
 三橋はそのまなざしをキチンと見返せないまま、 涙を落としながら頷いた。

































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