08 浮上するすべての何かと一人降下する僕だ  02












・・・ばかって、うつけ者っていう意味だよね。
たしなめの言葉だよね。

もう嫌い、・・・って 意味じゃないよな??
栄口くんとは、 絶交だ!!・・・って意味でもないよな???





・・・動揺してる。 激しく動揺しているぞ。


三橋に言われたひとことが、 エコーがかって栄口の頭を支配していた。
へろへろになった自らにムチ打ちながら、 ようやく家にたどり着いたら10時に近かった。





でも。


すこし喜んでいる自分は アブナイ人だろうか。
気を許してくれた証拠だなんて、 おもうのは。


・・・ご都合主義か?

三橋に怒られるって、 すごく特別なことだよ?




・・・嗚呼。




彼があんなことを言った理由はまだ分からないし、
泣いているかもしれないと 気が気ではないのだが


(許しを乞うのは、 新鮮かもなあ。)

夕食の 鶏の唐揚げカレー風味を食べながら ニマニマしていたら、
姉と弟に ずいぶん気味悪がられた。




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( ううううう どどどどうしよおおおおっ!!?? )

帰宅の挨拶もそこそこに、 三橋はベッドで震えていた。




取り返しがつかないって、こういうことだ。
栄口くんに、・・・どうしてあんなこと、 言うんだよ。


よく覚えていない。
ただ・・・ ルリの話をしたら、 栄口の笑顔が 何だかほころんで。
聴きなれたピアノ音楽を演奏する ルリの傍に、 栄口が行ってしまったような気がして。


心がパンクしそうになったとき 携帯電話が三橋を呼んだ。
・・・よりによって。






『レンレン、 寝てなかった?』

鈴のような、 イトコの声だった。



「・・・・レンレンて・・・ゆーな・・・」
『二回戦もうすぐだよね?? レンレンがんばってね!』

彼女のはずんだ声が、 三橋の中で あのピアノのメロディと重なった。



「るりのばか・・・・っ」
『??・・・ないてるの? レンレン?』



ピアノは歌っているんだって、 知ったのは   きょうがはじめてだった
でなきゃ。



 なぜ涙が出るのか  胸が破れそうなのか  あのときピアノの曲を綺麗だとおもったのか。




わけがわからないまま 三橋はただ、 嗚咽した。
心配そうに 三橋を気遣うルリの声は 酷く遠くきこえた。



(きっと、 もう許してくれやしない。)

不安に押し潰されそうになりながら、
三橋は受話器を濡らしつづける。




今、 とても  栄口の声が聴きたかった。
                       (08 浮上するすべての何かと一人降下する僕だ)




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びっくりするくらい両思いなのに、 びっくりするくらいすれ違っている話だ・・・
ルリちゃんのピアノ説は 想像です お嬢様のたしなみ。