「みはしっ！！！！] 　用具倉庫に駆けつけた栄口の目の前の光景。 　 　三橋が仰向けになって倒れていた。 　エースの腹の上には、アイちゃんが乗っていた。　べろん、　べろん、 　とアイちゃんの長い舌が、 　顔の上を行ったり来たりしている。 　 　「アイちゃんっ！！！」 　 　べり、　と　執拗に三橋に懐いているアイちゃんを引き剥がす。 　もう、三橋は失神寸前であった。 　「三橋、大丈夫か？？　みはし！！」 　三橋は顔面蒼白だったが、栄口の呼びかけで　息も絶え絶え、目を開けた。 　「う・・・だ、　だい、　じょぶ、で、　す・・・。」 　三橋の頬や唇は、アイちゃんの熱烈な愛情表現によって、湿っていた。 　（う゛、ぐ・・・っっ！！！　うあああ・・・） 　 　うつろな涙目が、　濡れた唇が、 　なんだか艶かしいものに見えて　栄口は思わず赤くなる。 　まずいよ、朝なのに。いや朝だからこそか。 　持っていたタオルで　三橋の顔を拭う。でないといろいろ大変なので。 　ふと、視線を感じた。 　視線の主は　アイちゃんの黒目がちな瞳。 　一瞬バツが悪くなったが、　だんだん嫉妬の心が　湧き上がってきた。 　「・・・アイちゃん・・・、（俺の）ミハシを押し倒すなんて、十年早いよ・・・」 　俺だってまだなのに！！　俺だって舐めたい！！　俺だって・・・（以下自主規制）！！ 　 　動物は、好きな相手に寄っていくものだ。相手がおびえていても、寄ってくるのだ。 　まさか・・・アイちゃん・・・三橋のこと。 　いや、犬だけど。いちおう乙女だし。 　くだらないけれど、気になるのだ。 　三橋が　好きな人も、 　三橋を　好きな人も。 　ぜんぶ、　ぜんぶ油断ならないのだ。 　自分もじゃん。 　 　栄口は自嘲する。 　朝っぱらから不謹慎な自分には、ランニング　校庭十週を課すことにした。 （45　きんいろの皇帝が跪く）