03. たすけてお前がだいすきです <後編>
きっと四苦八苦するだろうという栄口の予想に反して、 三橋の体は思いのほか素直に栄口の挿入を許した。
先っぽで押し広げながら侵入すると、苦しそうに、拒絶するように、一度は腰が逃れようとした。
しかし入口を通過して先端を中まで含ませたあとは、わりと無抵抗にすべてを飲み込んでいった。
ヌプ、ヌプ、と下肢でいやらしく音がしている気がする。
キスされながら受け入れる。
三橋の全身は総毛立った。
「あ、あ、」
「っ、三橋…痛くないか?」
ちょっと強引に中まで差し込まれたモノは熱くて、硬かった。
侵入してきたモノに中を満たされたことで、三橋の呼吸がとても浅くなる。
心配そうに栄口が三橋の顔を覗き込むと、二人の瞳がピタリと合わさった。
その瞬間、三橋の動揺はすさまじくて。
浅い呼吸はこのまま止まってしまうのではないかと思うほど乱れる。
熱くて甘い痛みが三橋を突き立てているけれど、今にも気を失いそうなほど三橋の感覚はなんだか鈍い。
三橋は、栄口から目が離せなくなった。
メタルフレームの眼鏡を着けたの栄口が、目を細めて熱っぽく自分を見る栄口が。
う……や…さかえぐちく、…かっこい……、
いつもなら、決して見ることのない栄口の表情だった。
それが三橋の感情を捉えて離さない。
チームメイトの、普段とは違う顔が目に飛び込んできて、三橋はぼおっと見惚れた。
そのとたん、
下肢の結合部から立つズプズプという湿った音と、目の前の人の行動が、三橋の意識で繋がった。
信じられないほどの羞恥心に目が眩んで、
思わず悲鳴を上げた。
「あっ、 あっ! やだ、 こんなの…したら…っ、や。 …っ」
日焼けを逃れた三橋の白い胸や腹部が、 みるみるうちに朱に染まる。
耳の先まで真っ赤染めあげながら、
いやだいやだと、首をふった。
「三橋?」
あれ、急にどうしてだかわからないけど……三橋が すっげ、 かわいい。
三橋の鮮やかな変化の色に、
栄口は、ふ、と息を吹き出しながら、唇を噛んだ。
髪をパサパサと乱しながら、首を左右に振る三橋の頬はピンク色だ。 そっと手を添えると、ビクンと三橋の薄い胸は跳ねあがった。
「や、 おれなんかっ…に、 あ、あっ!」
栄口の掌にほっぺたを触られただけで、 ひどく甘い刺激となる。
栄口に手を放してもらいたくて身を捩ると、中に這入っている栄口のモノが、 グ、と三橋の内壁を控えめにえぐった。
「んっう、 あっ、 あっ!」
下肢の狭い部分で粘膜が密着し擦れ合う感覚に、三橋はたまらず声を上げてしまう。
栄口の視線は、ずっと三橋から離れない。 気遣わしげに、
しかし熱っぽくこちらを見つめる視線。
ついさきほど魅入ってしまった栄口の顔が、
深いオールド・ブラウンの瞳が、
栄口君が、
栄口君が、
こんなとこを見てる。
おれがこんなになっているの、見てる。
かあ、と顔がますます紅潮して、胸が燃えさかり熱くなって、
意志とは無関係に
腰を二、三度揺らしてしまった。
怖いくらいに痺れる感覚が、三橋の身体に走った。
「ひあ、…う、…ひっく 」
快感の意味がわからず、
自分の体も、意識も、もうどうにもコントロールできなくなって混乱を極めてしまった三橋は、
しゃくりあげながら、ボロボロと涙をこぼしはじめた。
その涙を手指で拭き取りながら、栄口は砂を噛むような複雑な表情で三橋にささやいた。
「三橋……?」
痛いはずはないだろうな。
頬を朱に染めて涙を流す三橋をみていると、罪悪を感じた。
でも身体は耐えがたいほど三橋に襲いかかりたくて、唸っている。
苦痛を味わってほしくない甘やかな気持ちとこのまま酷く抱きたい想いがせめぎ合っているのだった。
「そりゃ…痛い…はずだよな」
窺うような栄口の声に応える代わりに、三橋は嗚咽し続けた。
「三橋」
切なそうに黙って泣き続ける三橋の耳元で、栄口が名前を呼んだ。
栄口のテノールは三橋の鼓膜を刺激して、
体と心を震わせる。
自分を呼ぶ声だけはいつもと変わらない。
それが余計に三橋を乱れさせた。
ひくひくと切なそうに下半身が痙攣して、白い太腿がビクンと栄口の腰に擦り寄った。
無意識に体を栄口に押し付けるよう動かしてしまって、
恥ずかしくて仕方がなかった。
「お…おれなん…か……にっ、 だっ……、だめ…だあっ」
下複をヒクつかせながら、三橋は涙に暮れた。自分でもなにを言いたいのかわからない。
ただ今の自分の状態が信じられなくて、
恥ずかしくて、どうしていいのかわからなかった。
「ひっ…さかえぐちくん、さかえぐちくん、だめだ、よ、」
泣きじゃくりながら、
三橋がうわごとのようにくり返す言葉を栄口は黙って聞いていた。
「さ…かえぐちく……カ、カッコイイ…のに」
「………え?」
三橋の舌ったらずな喋りかたが、栄口の胸を巣食った。
なに…すごい誘い文句いっちゃってるの?
「ひっ!? っ、く」
内部で栄口のモノが突然質量を増して、三橋は短い悲鳴を上げて体をよじった。
うまく力の入らない両足をピン、と伸ばして震わせて堪えた。
「………三橋は…ほんとうに」
「ん、く、……あ、あ、さかえぐちくんっ」
栄口自身が思いもよらなかったらしく、
照れたように目を細めて笑った。
先ほどから三橋の五感を刺激しつづける、栄口の低めのテノールが、三橋の上に降ってくる。
耳に流れ込んでくる声は、なにか強い衝動を懸命に抑制しようとしていた。
「すげー可愛いって…わかってんの? そんな可愛い…、そんなこと、」
「あっ、あっ、動い、ちゃ…やだ…よ、」
「可愛い、可愛い、可愛い」
三橋の制止の声など、
今の栄口の耳には入っていないようだった。
栄口は三橋の耳元で、熱い息といっしょに同じ言葉を何度も繰り返す。
繰り言にあわせて、三橋を浅く、深く、何度も突き上げた。
視界が真っ赤に染まるほど、こんなにこの子に欲情してしまうなんて。
自分はおかしいんじゃないかと、栄口は頭の片隅で自身を笑い飛ばしてやった。
「あ、あっ、ん……やあっ…い…」
繰り返し深く、深く、栄口の太く硬直したものを乱暴に抜き差しされた。
繋がった部分ではくちくちと、粘膜と体液が卑猥な音を立てていて、三橋は気が遠くなった。
「そ、そん…な、こすら、な……でっ」
焦点の合っていない三橋の美しい瞳が懇願する。栄口は慰めるような優しい仕草で三橋の右手を取って、震える指先に口付けた。
「三橋、そういう声ヤバイ」
「ふ、や、う…っ、いっあ…」
「ぐちゃぐちゃにしてえ」
珍しくゾンザイな口調で欲求を吐き捨て、
三橋の体を折れそうなくらい強く抱きしめて、栄口は激しく激しく動いた。
「あ、…んあ、…はっ」
栄口にこんなことをされている事実に、そんな自分に、
三橋は失神しそうだった。
先走りを薄い筋肉の張った自分の腹の上に飛び散らせて、中途半端に達した。
「ふっ…は、ふっ」
「三橋…」
三橋はぼやける視界の中で、栄口が満足げに目を細めながら三橋が出した少量の液体を指で拭いとる光景を見た。
「ああ、い、やだあ」
あまりの恥ずかしさに三橋は両手で目を覆い隠した。
すると三橋の耳を舐めるように口を近づけた栄口が、彼のものとは思えないような低いトーンで囁いた。
「まだだよ」
くち、くち、という粘膜の摩擦音は終わらない。
三橋の下肢で繰り返される熱いものの抜き差しも止まらない。
それを喜ぶように
三橋のモノがふるりと揺れた。
腰が勝手に動くのも三橋は自分でどうにもできなかった。
「や、やっ…」
もっと乱暴にされてもいいから、もう。
こんな感覚が続くのは辛い、と三橋は栄口のシャツをくしゃりと握り締めた。
「三橋、三橋」
栄口は、哀願するように服を掴んでくる三橋の指先を摘み取った。
眼鏡越しに自分を見つめる栄口の目と、三橋の涙で濡れた目が合う。
三橋の指先に口付けしながら、栄口は大切そうに短い言葉をひとこと、ハッキリと紡いだ。
「好きだ」
「っ、んん」
思わず心と体が震えてしまう。
三橋にとってはそれはあまりにも予想外な言葉。
栄口とこんな行為をしているのに、
それでも
彼が自分を好きだなんて考えることができないほど幼いのが三橋だった。
彼の声で、彼に痴態を見られているというそれだけで、もうイキそうになった。
「う…うん…っ」
今にも途切れそうな声で、三橋は精一杯に応えた。
ヒクつく下肢を栄口の身体に擦り寄せながら、栄口の視線に晒されながら
三橋は達してしまった。
同時に、
はらはらと涙を流して栄口を見上げていた三橋の瞳が、薄く閉じられる。
ピクピクと震える瞼に、
涙でキラキラと光る睫毛に、
痙攣しながら弛緩する体に、
色白の腹部を濡らした体液に、
無意識にまだ腰を動かす下肢に、
半開きの唇から覗く赤い舌に、
栄口はたまらなくなった。
「み、は、し」
「あっ、う、」
三橋の細く真っ白な腰を抱えて、自分のモノの出し入れを再開した。
「そんなに押し付けて…もっと奥まで入れて欲しいんだ?」
「やっあ、な、んで、そ、なことっ…ゆわないで」
真っ赤な顔を両腕で覆い戸惑った様子を見せていたけれど、
栄口が太くなった自分のモノを思いきり三橋の深いところまで入れ込んで動きを止めると、
キュウ…と三橋の粘膜は控えめにそれを何度も彼を締め付けた。
「や、とまんない、もう、ああっ」
収縮する三橋の熱い粘膜に応えるように、栄口の硬いものがグイッと奥を突くのでもっと締め付けてしまう。
勝手に動いてしまう腰も止められない。
「三橋、おねだりしてるみたいだ」
「!?」
栄口のとんでもない発言に気が遠くなった。
深いところで繋がったまま動くことを止めた栄口。
とっても恥ずかしいことをいわれているのに、三橋の身体は頼りなくて、栄口の刺激を欲しがっていた。
「…大丈夫。大好きだ」
「っ、」
どんな三橋も大好きなのだ。たとえその眼が自分を映していなくても。
栄口はずっとそう思っている。
ちょっと淫乱な三橋がよけいにたまらない、
といいかけた言葉は親切に伏せた。
栄口は、三橋が安心できるようにありったけの笑顔を見せる。
照れたのだろうか、
三橋が真っ赤な顔をしてその笑顔から視線を背けようとするので、顎を捉えて深いキスをした。
「ん、う」
嫌がる隙も与えずにきつく唇を重ねたまま、少し乱暴に三橋の身体を突き上げた。
何度も、何度も。
ツプツプと下肢で粘着質な音が立っている。
結合部をぬるぬるにさせて、朦朧としながら三橋も健気に腰を揺すっていた。
「…っあ!」
重なる二人の唇に僅かな隙間ができて、
はふ、と三橋の熱くて小さな吐息が栄口の唇に柔らかく触れた。
「んっ…」
もう一度強引にキスをされて、
優しく唇を吸われて、 三橋が「でちゃう」と呟いた。
その三橋の消え入りそうな声とセリフが
栄口への決定打となる。
「もう無理、三橋…っ、エロす、ぎ、」
「やあ」
絡みついてくる三橋の熱い壁を名残惜しそうに振り切って、
栄口はぬるりと自分のモノを彼の中から抜き取った。
そして切なげに勃ちあがって液を漏らす三橋のそれと自分のを密着させて、右手指で一緒に擦りあげる。
「あ、んんっ!」
「三橋、三橋」
「う、っあ、栄口…くん、栄口くんっ」
名前を呼びあいながら、二人はほとんど同時にイった。
栄口は、ヒクン、と痙攣する三橋の細い体を抱きしめながら、
身体を包む甘い疲労と余韻を堪能しながら、
お願いだから他のヤツとはこんなことしてくれなかったらいいなあと思った。
三橋の体温も、
匂いも、
声も、
もうぜんぶ閉じ込めてこのまま飲み込んでしまいたかった。
03
たすけてお前がだいすきです
柑橘径に戻る< 注意書きに戻る< 小説に戻る< |