いつもそばにいるとばかりおもっていました(三橋)


「もっと知ればいいじゃないか! 怖がりすぎなんだよ三橋は!」




わんわんわんわんわんと金属っぽい音が耳に響いて、まるで頭を殴られたかのように錯覚する。

三橋の血潮は枯れ果てる。

網膜がジリジリと痺れるように熱くなって涙がぎゅーっと満ちてきた。




目の前に立つ栄口の頬は青ざめている。

まっさらな濁りのない白目の部分がコントラストを作るから、くっきりとした澄んだこげ茶色の瞳はなおさら苦しそうに、
三橋には見える。




「さ、か」




三橋が名前を呼びきれないうちに、さっと顔をそらして栄口は部屋を出ていった。

激した空気には似つかわしくないほど、静かに扉を閉めて。




「……さかえぐち、くん」



ぽつりと漏れた震える声は、三橋の広すぎる部屋の中では哀しいくらいに小さくて無力で。

胸の中を乱暴な指に掴まれ残酷に握りしめられている感覚が、三橋を苦しめた。たまらずうずくまって、
嗚咽を漏らそうとしたのに、




「つっ…………っ!!」 


涙が、でない。




いつも自分の感情をなによりも明確に描いてくれる涙は、言葉を器用に扱えない三橋の無意識による防衛手段だったのに、
今日にかぎって一滴たりとも瞳から零れることはなかった。




「ひっ……っく」



三橋の指先はみるみる熱を失って、絨毯の上で冷えていく。


しゃらしゃらという音を聴き顔をあげたら、いつのまにか雨が降っていた。
三橋は窓の外を呆けたように眺めながら、栄口くんは傘を持ってきていなかったなとぼんやり考える。
肩を濡らす雨粒を払いながら、走る彼の姿が目に浮かんだ。
いつもなら、傘を持って追いかけてきた三橋に、振りかえった栄口は照れ臭そうにはにかむだろう。


そんなこともうできないのかもしれない、悲しい想像が三橋につらくあたる。

 




叫びだしてしまいたかった。
栄口の名前を何度も叫ばなければ、
不安に押しつぶされてすべての機能を失って、呼吸さえできなくなりそうだったから。


たとえ届かなくても。二度と聞いてはくれなくても。

無意味だと冷たく言い捨てられても、名前を呼んでいたかった。

 




「栄口くんっ……」



 

幼くて臆病で素直でけなげで身勝手な少年は、はじめて切なさという糸に縛られる。


同じ糸に、栄口が長い間ずっと縛られ続けていることを知らないまま。







02へつづく




























































いつもそばにいるとばかりおもっていました(三橋)

お題を使った続きものです。
三橋→←←←←←←←栄口の関係でしたが
イッパイイッパイになった栄口くんが爆弾を投下しました




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