三橋は足が速い。
野球部全員でランニングを競えば、
水谷がどれほど必死になって手足を振りしきろうとも、三橋はそのずっと前方を疾走している。
いつだって後頭部しか見ることができなくて。
いつだって、
あの光に透けて 淡く輝く茶色の癖っ毛は、ふわりふわりと揺れながら
水谷のもとを遠ざかっていくのだ。
すうっ とラインが一本引かれたような、華奢で奇麗な背中を見送るばかりで。
いつまでも追いつけない。
(ああ、そういえば)
試合中のグラウンドでも、
水谷は、ずっと三橋の背中ばかりを見ていた。
細いけれど、マウンドではしゃんと伸びる彼の背中は、
水谷の目にはとても小さくて遠い代物で。
くしゃりと折れてしまった時でさえ、駆け寄って手を差し伸べることはできなかった。
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