麓がみえない下り坂 めまいを覚えてたちつくす
かんからころん、 と空き缶が。
転がり落ちる音がする。やがて音は、泉の耳から遠ざかっていった。
坂道の途中で、泉と三橋は向かい合っていた。
消えかかった街灯が、ブウン、と唸る。ふたりを照らすのは、その心許ない灯りだけである。
今はっきりと確認できるのは
青ざめたお互いの顔と、息遣い、震えが止まらない体、
三橋の手からこぼれ落ちた、空き缶が転がる音だけ。
「い、 ずみ、 く、」
三橋は震えが止まらないのに、なぜか体温は上昇していく。
息が上がってとても苦しい。
泉は答えない。三橋を凝視したまま、真っ青な顔色をしている。三橋に彼の感情を読み取る術はない。
・・・どうして?
と訪ねる知恵は、回らない。そういえば、泉の前で、さっき泣いてしまったのだっけ。
涙を流した理由をついぞ忘れてしまうほど、三橋の心は混乱の海の中であった。
三橋は思考の海に溺れてしまった。泉は三橋を海から引っ張り上げなくてはならない。
ところで空き缶はいったい何処まで転がっていったのだ??
『空き缶はゴミ箱へ捨てましょう』
『三橋はおうちへ(無事に)送ってゆきましょう』
でなきゃモモカンに 頭握ら れ る
三橋は泉に手を引かれ、長い坂道をトボトボと下ってゆく。
強く握って離さない泉の手に、三橋は安堵と不安が入り混じった気持ちになった。
坂を下りきったところで、さっき三橋が落とした空き缶を見つけた。
こんなところまで転がり落ちるなんて、まるで俺みたいだと、
憎憎しげにわらって泉は缶を拾い上げた。
(30 最悪すぎる夜の端っこ)
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