「うわあ、またきた!」
「しぶとい嬢ちゃんだ。あっしが ぶん殴って、気絶させて、穀物袋の中に
スマキにして
港の交易所の倉庫に放りこんどったってのに・・・。」
「ルーア様、どうしましょう・・・・?」
ルーアはうんざりしている。 ロッコは感心している。 エンリコは十字をきっていた。
戦慄の男達の前に立ちはだかるのは、
夕焼け色の毛髪をたたえ、立ち居姿は凛々しい、
美貌の女海賊
”カタリーナ・エランツォ”
彼女に命を狙われる理由が分からない。怨まれるような覚えがない。
すでに、過去三度の逃亡劇を演じている。
が、彼女は どこまでも、どこまでも、どこまでも、どこまでも・・・追撃の手を緩めようとはしない。
「新手の求愛行動じゃあないんですかね??」
「変なこと言わんでくれロッコ。」
愛を謳う女性が、左手にレイピアをギラギラとさせながら、怒気で沸騰しかかったまなざしを向けるものか。
「港に立ち寄るたびに、これでは・・・」
身がもたない。
「よーし、ロッコ。もう一度だけ、彼女を袋に詰めて、馬小屋にでも放り込んでもらえるかい?」
「やりましょう。そろそろ・・・坊ちゃんよりもあっしが怨みを買いそうでおっかないですな。」
「これで最後さ。」
「どうなさるのです?」 とエンリコ。
「まあ〜た、 逃げるかああ〜〜卑怯者おお〜〜!!」
ロッコにドツかれながら 怨み節を叫ぶカタリーナの声を背に、
ルーアとエンリコは コペンハーゲンの酒場を辞した。
ルーアはすたこらと逃げ走りながら、伴走する黒衣の修道士にウインクをした。
「そろそろ逃げ回るのにも飽きてきたところだ。 望み通り決着をつけてやるぜ。」
我が主人の、ひと懐こいアイスブルーの瞳から、彼の意図をエンリコは酌み取った。
「次の港で、水夫と砲弾を集めるのですね?」
「たのむ」
エンリコは 忠節の意を込め、黙って頷いた。
胸の前で、ちいさく十字を切りながら。
それは 神の思し召すところではないけれど。
賭けましょう、 あなたの強さに。
祈りましょう、 あなたの勝利を。
守りましょう、 あなただけは。
海戦の火蓋が切って落とされるのは、目前だ。
(20 海と空の隙間の劇場) |